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容積率は地価をどこまで押し上げる?東京23区の用途地域×容積率データ分析

丸の内のオフィスビル群と東京駅。容積率1300%超の特例指定を受けた超高層ビルが林立する
丸の内ビル群と東京駅丸の内駅舎(千代田区)。特例容積率1,665%が適用された丸の内ビルディングをはじめ、容積率緩和が都心の超高層化と地価形成を支えている。 出典: Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0, 663highland)

はじめに — 容積率が変われば、地価は何倍になるのか

「容積率」は土地の使い方を決める最も基本的なルールのひとつです。建物の延べ床面積が敷地面積の何%まで建てられるかを定めたこの数値は、その土地で生み出せる収益の上限を規定するため、地価に直結します。

2026年(令和8年)の公示地価で、東京23区の商業地は前年比+13.8%と1992年以降で最高の上昇率を記録しました。この記事では、用途地域と容積率のデータから「なぜ同じ東京でも地価が100倍以上違うのか」を読み解きます。

容積率の基礎知識 — 地価を左右する仕組み

容積率とは

容積率(%)= 建物の延べ床面積 ÷ 敷地面積 × 100

たとえば容積率800%の土地なら、100㎡の敷地に800㎡分の建物(10階建て×80㎡/フロアなど)を建てられます。容積率が高いほど、同じ土地から得られる賃料収入が大きくなるため、地価は高くなる傾向があります。

用途地域別の指定容積率

用途地域指定容積率典型的なエリア
商業地域200〜1,300%銀座、丸の内、新宿駅前
近隣商業地域100〜500%駅前商店街、幹線道路沿い
第一種住居地域100〜500%一般的な住宅地
第一種中高層住居専用地域100〜500%マンション主体の住宅地
第一種低層住居専用地域50〜200%田園調布、成城など高級住宅地

(出典:建築基準法・都市計画法の規定より土地ペディア作成)

東京都は令和元年10月に「用途地域等に関する指定方針」を改定し、利便性の高い駅周辺で容積率800%の指定を可能とする方針を示しています。

容積率別の地価データ — 高容積率ほど高地価か?

超高容積率(800%〜1,665%): 都心商業地

地点容積率公示地価(円/㎡)前年比
銀座4丁目・山野楽器中央区700%6,710万+10.9%
銀座5丁目・対鶴館ビル中央区700%5,700万
銀座2丁目・明治屋ビル中央区700%4,960万
新宿3丁目・M-SQUARE新宿区800%4,200万
新宿3丁目・高野第二ビル新宿区800%4,150万
丸の内2丁目・丸ビル千代田区1,665%(特例)3,760万+1.3%
渋谷・宇田川町渋谷区700%3,530万+5.4%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

注目すべきは、容積率が最も高い丸の内(特例1,665%)が銀座(700%)より地価が低い点です。容積率の高さだけでは地価は決まりません。商業集積度、歩行者通行量、ブランド力といった「立地の質」が最終的な地価を左右します。

中容積率(400%〜600%): 準商業・近隣商業地域

地点容積率帯公示地価(円/㎡)前年比
浅草1丁目台東区600〜700%717万+19.1%
道玄坂2丁目渋谷区800%2,600万
中野駅周辺中野区600〜700%(緩和後)+17.5%
本郷エリア文京区500〜600%+17.8%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

この容積率帯では、上昇率が際立ちます。台東区の商業地は+19.1%で23区中トップ。浅草エリアの地価は10年間で約3.6倍に上昇しました。容積率600%台のエリアは「まだ上昇余地がある」と市場に評価され、再開発の波が押し寄せている段階です。

低容積率(100%〜200%): 閑静な住宅地

田園調布の低層住宅街。容積率100〜150%の第一種低層住居専用地域が広がる
田園調布(大田区)の住宅街。第一種低層住居専用地域(容積率100〜150%)に指定され、高い建物が建てられない代わりに緑豊かで閑静な環境が維持されている。 出典: Wikimedia Commons(CC0, Syced)
地点容積率公示地価(円/㎡)
松濤渋谷区100〜150%約77万
田園調布大田区100〜150%約44万
成城世田谷区100〜150%約50万
目黒区・低層住専平均目黒区100〜200%約140万

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

容積率が低いからといって地価が安いとは限りません。松濤(渋谷区)の住宅地は容積率100〜150%ですが、㎡あたり約77万円と多くの区の住宅地平均を上回ります。低容積率は「低密度で良好な住環境」を保証するルールであり、それ自体が資産価値を高める要因になっています。

同じ区内で容積率が違うとどうなるか

千代田区のケーススタディ

千代田区は容積率のバリエーションが最も大きい区です。

エリア用途地域容積率公示地価(円/㎡)
丸の内商業地域1,665%(特例)3,760万
六番町第一種中高層住居専用400%483万
九段北第一種中高層住居専用300%322万
麹町第二種中高層住居専用200%約103万

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」「令和7年地価公示」より土地ペディア作成)

丸の内と麹町は直線距離で約1.5kmしか離れていませんが、地価は約36倍の差があります。容積率の差が8倍以上あるうえに、商業地と住宅地という用途の違いが加わるためです。

同じ住宅地同士で比較すると、容積率400%の六番町(483万円/㎡)は300%の九段北(322万円/㎡)を約50%上回っています。容積率100ポイントの差が15〜20%の地価差に対応する傾向が見て取れます。

渋谷区のケーススタディ

渋谷区は繁華街と高級住宅地が隣接する特徴的な区です。

  • 宇田川町(商業地域・容積率700%):3,530万円/㎡
  • 松濤(第一種低層住居専用・容積率100〜150%):約77万円/㎡

同じ区内で約46倍の差があります。容積率の差だけでなく、「収益を生む商業地」と「住む場所としての住宅地」という用途の違いが、この圧倒的な価格差を生んでいます。

容積率緩和と地価 — 再開発の地価インパクト

渋谷駅全景。サクラステージをはじめとする大規模再開発で容積率緩和が進む
渋谷駅周辺の全景(2025年)。渋谷サクラステージ(右)をはじめとする大規模再開発で容積率が800〜900%に緩和され、桜丘町の商業地は前年比+29.0%と23区最大の上昇率を記録した。 出典: Wikimedia Commons(CC0, かなえゆうじん)

渋谷桜丘町 +29.0% — 容積率緩和の最前線

2026年の地点別上昇率で23区トップとなったのは、渋谷区桜丘町14番の+29.0%です。渋谷サクラステージの開業に伴い、指定容積率が800%に緩和されたエリアです。再開発前は老朽化した中小ビルが密集していた地域が、容積率緩和をテコに大規模複合施設に生まれ変わり、地価が急騰しています。

丸の内 — 容積移転制度のパイオニア

丸の内では、東京駅赤レンガ駅舎の保存に伴う容積移転制度が活用されています。

  • 丸の内ビルディング:従前1,300% → 特例1,665%
  • 新丸の内ビルディング:従前1,300% → 特例1,665%
  • 丸の内パークビルディング:従前1,300% → 特例1,430%
  • JPタワー:従前1,300% → 特例1,520%

歴史的建造物の保存と超高層開発を両立させる仕組みとして、国際的にも注目されているモデルです。ただし、丸の内の2026年上昇率は+1.3%と控えめです。すでに市場が容積率緩和の効果を織り込み済みであり、「緩和直後」ほどの急騰は見られません。

容積率緩和は地価を上げるのか、下げるのか

経済学的には、容積率緩和が地価を押し上げるかどうかは「需要の弾力性」に依存します。魅力が高いエリアでは、容積率を緩和すると賃料の低下以上に需要が増加するため、地価は上昇します。一方、需要が弱いエリアでは、供給増による賃料低下が地価を押し下げる可能性があります。

2026年の東京23区は需要が極めて強い局面にあるため、容積率緩和がほぼ確実に地価上昇をもたらしています。渋谷+29.0%、杉並+17.5%(中野駅周辺)、台東+19.1%という数字が、それを裏付けています。

2026年の全体像 — 23区商業地は+13.8%

2026年の東京23区の公示地価は、全用途平均で+8.4%、商業地で+13.8%と1992年以降最高の上昇率を記録しました。住宅地も+9.0%と力強い上昇が続いています。

  • 商業地上昇率トップ台東区+19.1%、文京区+17.8%、杉並区+17.5%
  • 住宅地上昇率トップ港区+16.6%、台東区+14.2%、品川区+13.9%
  • 23区中22区で商業地上昇率が拡大、18区で上昇率10%超

これまで都心5区(千代田区港区中央区新宿区渋谷区)に集中していた地価上昇が、隣接区へと波及しています。都心5区の商業地は+12〜19%、その隣接区も+15〜19%と、ほぼ同水準の上昇率を示すようになりました。

今後の見通し

上昇要因

  • 容積率緩和の継続:東京都は駅周辺の容積率800%指定を推進中。今後も渋谷・品川・新宿などで大型再開発が控える
  • 都心5区から隣接区への波及品川区+13.9%、杉並区+17.5%など、容積率が比較的低い隣接区に上昇余地が残る
  • インバウンド需要:商業地の上昇を牽引する外国人投資は拡大傾向
  • マンション価格との連動:住宅地の容積率400%以上のエリアでタワーマンション需要が堅調

リスク要因

  • 金利上昇:利上げ局面では不動産投資の収益性が低下し、容積率緩和の地価押し上げ効果が減衰するリスク
  • 供給過剰:容積率緩和による大量のオフィス供給が空室率上昇を招く可能性。特に2026〜2028年は大型ビルの竣工ラッシュ
  • 規制強化の可能性:景観保全やオーバーツーリズム対策で、一部エリアの容積率が据え置きまたは引き下げとなるリスク

よくある質問

Q. 容積率が高いほど地価は高くなりますか? A. 傾向としてはYesですが、単純な比例関係ではありません。銀座(容積率700%)の地価6,710万円/㎡は丸の内(特例1,665%)の3,760万円/㎡を大きく上回ります。容積率は地価の「上限」を規定する要素のひとつであり、最終的な地価は商業集積度、交通利便性、ブランド力など複合的な要因で決まります。

Q. 容積率が低い住宅地は資産価値が低いですか? A. いいえ。容積率100〜150%の第一種低層住居専用地域は、高層建築が制限される分、閑静で緑豊かな住環境が保証されます。渋谷区松濤(容積率100〜150%)は約77万円/㎡と、23区の多くの住宅地平均を上回る水準です。低容積率は環境価値を高める規制であり、資産価値と矛盾しません。

Q. 容積率緩和で地価はどれくらい上がりますか? A. 再開発の規模と需要の強さによります。渋谷桜丘町は容積率800%への緩和後、2026年に+29.0%の上昇を記録しました。一方、丸の内は容積率1,665%への緩和がすでに価格に織り込まれ、+1.3%にとどまります。緩和直後の上昇が最も大きく、時間の経過とともに効果は市場に吸収されていきます。駅徒歩と地価の関係もあわせてご覧ください。

まとめ

東京23区の地価は、容積率という規制の「枠」のなかで需要と供給のバランスによって決まります。容積率1,665%の丸の内ビルディングが3,760万円/㎡、容積率100%の田園調布が44万円/㎡。約85倍の地価差は、容積率の差(約17倍)だけでは説明できず、立地の質・商業集積度・ブランド力が掛け合わさった結果です。

2026年の公示地価で最も注目すべきは、容積率緩和が実施された再開発地区の急騰です。渋谷桜丘町+29.0%、台東区+19.1%、杉並区+17.5%は、いずれも容積率引き上げと強い需要が重なった「上昇の黄金パターン」です。今後も東京都が推進する駅周辺の容積率緩和は、地価上昇のメインドライバーであり続けるでしょう。

ただし、容積率緩和は万能薬ではありません。需要の弱いエリアでの過度な緩和はオフィス・住宅の供給過剰を招き、地価を押し下げるリスクがあります。また、金利上昇局面では緩和効果が相殺される可能性も念頭に置く必要があります。

--- 出典・参考 - 国土交通省「令和8年地価公示」 - 国土交通省「令和7年都道府県地価調査」 - 東京都「用途地域等に関する指定方針及び指定基準」(令和元年10月改定) - 東京都財務局「令和8年地価公示 東京都分の概要」 - 国土交通省「大手町・丸の内・有楽町地区 特例容積率適用地区」

※本記事のデータは2026年3月時点の公示地価および各種公的統計に基づいています。

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