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金利1.0%時代の地価 — 令和8年公示で住宅地だけが加速しなかった意味

千葉ニュータウン滝野地区に広がる戸建て住宅地
千葉県印西市・千葉ニュータウン滝野地区の戸建て住宅地。令和8年地価公示で住宅地の全国平均は+2.1%と前年と同じ上昇幅にとどまりましたが、この「横ばい」の中身は地域によって大きく異なります。 出典: Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0, 千葉二郎)

はじめに — 「+2.1%」が隠している二つの事実

国土交通省が令和8年3月に公表した「令和8年地価公示」で、全国の地価は全用途平均が前年比+2.8%と5年連続の上昇となり、上昇幅も前年の+2.7%から拡大しました。商業地は+3.9%から+4.3%へ、工業地は+4.9%と3用途で最も高い上昇率を示しています。ところが住宅地だけは+2.1%で、前年とまったく同じ上昇幅にとどまりました。

同じ1年のあいだに、日銀の政策金利は0.5%から0.75%へ、そして2026年6月には1.0%へと引き上げられ、首都圏の新築マンション平均価格は上半期として初めて1億円を超えています。本記事では、この「住宅地だけが加速しなかった」という事実を出発点に、金利と実需の関係をデータで検証します。結論を先に言えば、住宅地の+2.1%は全国が一斉に足踏みした結果ではなく、加速するエリアと失速するエリアが相殺した結果です。

なお、金利と地価の一般的なメカニズムは地価と金利の関係で、マンション価格と地価の構造的な関係はマンション価格と地価の相関で扱っています。本記事はそれらの理論編に対して、令和8年公示という具体的な結果と2026年6月の利上げという直近の出来事を突き合わせる実測編にあたります。

令和8年地価公示 — 3用途のうち住宅地だけが動かなかった

用途別の全国平均変動率

まず、公表された全国平均を6年分並べます。価格時点は各年の1月1日、令和8年地価公示の価格時点は2026年1月1日です。

全用途平均住宅地商業地
令和3年-0.5%-0.4%-0.8%
令和4年+0.6%+0.5%+0.4%
令和5年+1.6%+1.4%+1.8%
令和6年+2.3%+2.0%+3.1%
令和7年+2.7%+2.1%+3.9%
令和8年+2.8%+2.1%+4.3%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

商業地は令和5年以降、+1.8%→+3.1%→+3.9%→+4.3%と一貫して上昇幅を広げています。これに対し住宅地は+1.4%→+2.0%→+2.1%→+2.1%と、令和7年の時点ですでに伸びが鈍り、令和8年でついに横ばいになりました。加速が止まったのは今年が初めてではなく、2年かけて減速していたことがわかります。

圏域別に割ると「横ばい」は消える

同じ住宅地を圏域別に分解すると、様相が一変します。

圏域令和7年 住宅地令和8年 住宅地動き
全国+2.1%+2.1%横ばい
三大都市圏+3.3%+3.5%拡大
東京圏+4.2%+4.5%拡大
大阪圏+2.1%+2.5%拡大
名古屋圏+2.3%+1.9%縮小(3年連続)
地方圏+1.0%+0.9%縮小
地方四市+4.9%+3.5%縮小(2年連続)
地方圏その他+0.6%+0.6%横ばい

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成。地方四市は札幌市・仙台市・広島市・福岡市)

三大都市圏の住宅地は+3.3%から+3.5%へ拡大し、東京圏も大阪圏も上昇幅を広げています。減速しているのは名古屋圏(3年連続で縮小)、地方圏、そして地方四市です。とりわけ地方四市の住宅地は令和6年+7.0%、令和7年+4.9%、令和8年+3.5%と2年で半減しました。全国の+2.1%という数字は、東京圏の加速と地方四市の失速がちょうど打ち消し合ってできた「平均の錯覚」だと言えます。

上昇率上位10地点のうち6地点が東京都

住宅地の変動率上位10地点を見ると、二極化はさらに鮮明です。

順位所在地令和8年 公示価格変動率前年
1長野県白馬村北城27,400円/㎡+33.0%+29.6%
2北海道富良野市北の峰町84,500円/㎡+30.0%+31.3%
3長野県野沢温泉村豊郷34,000円/㎡+22.3%+20.9%
4東京都港区港南3丁目2,260,000円/㎡+22.2%+18.6%
5長野県野沢温泉村豊郷24,700円/㎡+21.1%+17.9%
6東京都文京区本郷1丁目2,900,000円/㎡+20.8%+13.2%
7東京都港区赤坂1丁目7,110,000円/㎡+20.5%+10.3%
8東京都港区赤坂6丁目4,080,000円/㎡+20.4%+10.4%
9東京都港区芝浦2丁目2,740,000円/㎡+20.2%+15.7%
10東京都品川区東品川4丁目1,380,000円/㎡+20.0%+15.0%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成。前年は令和7年地価公示の対前年変動率)

上位10のうち6地点が東京都で、うち4地点が港区です。しかも赤坂1丁目は+10.3%から+20.5%へ、赤坂6丁目は+10.4%から+20.4%へと、いずれも上昇率が1年で倍近くになっています。残る4地点はスキーリゾートで、こちらは国内の実需ではなく海外資本と別荘需要が主役です。

一方、下落率の上位は北海道本別町北8丁目の7,500円/㎡(-6.3%)、宮城県大崎市岩出山の11,200円/㎡(-5.9%)、石川県珠洲市飯田町の7,800円/㎡(-5.5%)、石川県輪島市河井町の22,700円/㎡(-5.4%)と続きます。住宅地の「全国+2.1%」は、2,260,000円/㎡が+22.2%になる世界と、7,500円/㎡が-6.3%になる世界を同じ器に入れて出した数字なのです。

「横ばい」の正体は減速ではなく分岐

地方四市で「横ばい」地点が急増した

変動率の平均ではなく、地点数の内訳を見ると分岐がさらにはっきりします。住宅地の標準地を上昇・横ばい・下落で分類した割合の推移です。

圏域令和7年 上昇令和8年 上昇令和7年 横ばい令和8年 横ばい
全国65.4%65.5%12.5%13.3%
東京圏84.7%85.3%7.4%7.4%
大阪圏72.5%75.7%10.7%9.0%
名古屋圏86.0%83.0%7.0%9.8%
地方四市93.6%78.5%4.8%18.9%
地方圏その他42.1%43.6%18.6%18.8%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

注目すべきは地方四市です。上昇した地点の割合が93.6%から78.5%へ15.1ポイント下がり、横ばいの地点が4.8%から18.9%へ約4倍に増えました。下落地点は1.6%から2.6%とわずかしか増えていないため、これは「値下がりが始まった」のではなく「値上がりが止まった」という現象です。札幌市の住宅地は令和7年の+2.9%から令和8年は+1.1%へ、仙台市は+6.3%から+4.3%へ、福岡市は+9.0%から+7.0%へと、いずれも大幅に減速しました(広島市のみ+2.4%→+2.7%と拡大)。

半年刻みで見ると東京圏は後半に加速していた

地価公示と都道府県地価調査の共通地点(住宅地1,085地点)を使うと、1年を前半・後半に分けた変動率がわかります。令和8年公示の「前半」は2025年1月1日から7月1日、「後半」は2025年7月1日から2026年1月1日です。

圏域前半後半年間
全国+1.6%+1.6%+3.2%
三大都市圏+2.0%+2.1%+4.2%
東京圏+2.4%+2.6%+5.1%
大阪圏+1.5%+1.6%+3.2%
名古屋圏+0.9%+1.0%+1.9%
地方圏+1.0%+0.9%+1.9%
地方四市+1.7%+1.6%+3.4%

(出典:国土交通省「令和8年地価公示」より土地ペディア作成)

東京圏の住宅地は後半のほうが伸びています。この「後半」には日銀が政策金利を0.75%へ引き上げた2025年12月が含まれますが、東京圏の住宅地には減速の兆しが出ていません。逆に地方圏は前半+1.0%から後半+0.9%へ、地方四市も+1.7%から+1.6%へと後半のほうが弱く、減速はむしろ利上げ前から進んでいたことになります。

土地ペディアの市区町村データで見る住宅地の価格差

土地ペディアが市区町村ページで集計している住宅地の平均地価(令和8年公示ベース)を、主要都市について並べます。

都市住宅地 平均地価住宅地 変動率(令和8年)前年
大阪市320,773円/㎡+6.5%+5.8%
名古屋市288,465円/㎡+3.1%+3.6%
京都市266,165円/㎡+3.6%+3.2%
横浜市260,334円/㎡+3.3%+3.2%
福岡市246,356円/㎡+7.0%+9.0%
さいたま市219,662円/㎡+2.7%+2.5%
広島市160,535円/㎡+2.7%+2.4%
千葉市137,486円/㎡+5.8%+5.1%
仙台市134,344円/㎡+4.3%+6.3%
札幌市116,912円/㎡+1.1%+2.9%

(平均地価は土地ペディア集計、変動率は国土交通省「令和8年地価公示」都道府県庁所在地ベース)

この表に東京23区は入れていません。23区の住宅地変動率は令和7年の+7.9%から令和8年は+9.0%へさらに加速しており、他の政令市とは水準が違いすぎるためです。全国平均が+2.1%で止まっているとき、23区だけがその4倍以上のペースで上がっている——これが令和8年公示の住宅地の実像です。

その23区の内部にも、同じくらい大きな段差があります。土地ペディア集計による区別の住宅地平均地価は次のとおりです。

住宅地 平均地価千代田区との比
千代田区3,493,636円/㎡1.00
港区2,594,750円/㎡0.74
渋谷区1,631,250円/㎡0.47
文京区1,277,500円/㎡0.37
品川区1,090,390円/㎡0.31
世田谷区724,335円/㎡0.21
練馬区447,260円/㎡0.13
江戸川区411,814円/㎡0.12
足立区384,020円/㎡0.11
葛飾区366,828円/㎡0.10

(土地ペディア集計、令和8年地価公示ベース)

千代田区葛飾区の差は約9.5倍です。そして令和8年公示で住宅地変動率が20%を超えた東京都の6地点は、すべて港区文京区品川区という上位側に集中しました。地価上昇は高い場所ほど速く進んでおり、23区内でも格差は拡大方向にあります。

金利1.0%時代 — 何が、いつ、住宅地に効くのか

日本銀行本店本館の外観
東京・日本橋本石町の日本銀行本店本館。日銀は2025年12月に政策金利を0.75%へ、2026年6月に1.0%へと引き上げました。1.0%台の政策金利は1995年以来、約31年ぶりです。 出典: Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0, Suicasmo)

2年3か月で-0.1%から1.0%へ

政策金利の推移を整理します。

時期政策金利内容
2024年3月-0.1% → 0〜0.1%マイナス金利解除
2024年7月0.25%程度追加利上げ
2025年1月0.5%程度追加利上げ
2025年12月19日0.75%程度30年ぶりの水準、12月22日適用
2026年6月16日1.0%程度1995年以来約31年ぶり、賛成7・反対1
2026年7月30〜31日1.0%程度据え置き

(出典:日本銀行「金融政策決定会合」公表資料および各種報道より土地ペディア作成)

ここで重要なのは時間軸です。令和8年地価公示の価格時点は2026年1月1日であり、6月の1.0%への利上げよりも前です。つまり住宅地の伸びが止まったのは、政策金利がまだ0.75%だった段階の出来事でした。1.0%への利上げの影響が地価公示に現れるのは、価格時点が2027年1月1日となる令和9年地価公示以降ということになります。

住宅ローン金利はまだ全部は上がっていない

利上げが家計に届くまでにも時差があります。三菱UFJ銀行は短期プライムレートを2026年8月3日に2.125%から2.375%へ0.25%引き上げると公表し、住宅ローンの変動金利の基準金利見直しは2026年9月からとしています。同行の説明では、借入後の適用利率は4月1日・10月1日時点の基準金利をもとに年2回変動し、それぞれ6月・12月の約定返済日の翌日から新しい利率が適用されます。

長期固定側はより素直に反応しています。フラット35(返済期間21年以上35年以下、融資率9割以下)の最頻金利は2026年6月が年3.21%、7月が年3.14%、8月が年3.29%と、長期金利の上昇を受けて8月に大きく上がりました。

商品2026年6月2026年7月2026年8月
フラット35(最頻金利)3.21%3.14%3.29%
政策金利1.0%程度(6/16〜)1.0%程度1.0%程度
三菱UFJ銀行 短期プライムレート2.125%2.125%2.375%(8/3〜)

(出典:住宅金融支援機構、日本銀行、三菱UFJ銀行の公表情報より土地ペディア作成)

既存の変動金利借入者の返済額に6月の利上げが反映されるのは、多くの金融機関で2026年後半以降です。令和8年地価公示の価格時点である2026年1月1日には、ほとんどの家計にとって利上げはまだ「返済額の数字」になっていませんでした。

金利が奪うのは「返済額」ではなく「買える額」

金利上昇の影響を月々の返済額で見ると小さく見えます。5,000万円を35年元利均等で借りた場合の試算です。

適用金利月返済額0.5%との差総返済額
0.50%129,793円5,451万円
0.75%135,392円+5,600円5,686万円
1.00%141,143円+11,350円5,928万円
1.50%153,092円+23,300円6,430万円
2.00%165,631円+35,839円6,957万円
3.29%200,608円+70,815円8,426万円

(土地ペディア試算、元利均等返済・返済期間35年)

しかし住宅地の地価に効くのは返済額ではなく、同じ返済負担で借りられる金額のほうです。月13万円を返済上限としたとき、金利ごとの借入可能額はこうなります。

適用金利借入可能額0.5%との差
0.50%5,008万円
0.75%4,801万円-207万円(-4.1%)
1.00%4,605万円-403万円(-8.0%)
1.50%4,246万円-762万円(-15.2%)
2.00%3,924万円-1,084万円(-21.6%)
3.29%3,240万円-1,768万円(-35.3%)

(土地ペディア試算、元利均等返済・返済期間35年)

金利が0.5%から1.0%へ上がるだけで、同じ返済額で買える価格が8.0%下がります。住宅地の地価上昇率が年+2.1%であることを踏まえると、この8.0%は約4年分の地価上昇に相当します。金利上昇は住宅地に対して、ゆっくりだが確実な逆風として働くと考えられます。

マンション価格の天井感 — 実需の息切れを示す指標

中央区勝どき・月島の運河越しに林立するタワーマンション群
東京都中央区勝どき・月島の運河沿いに林立するタワーマンション群。首都圏の新築マンション平均価格は2026年上半期に1億135万円と、上半期として初めて1億円を突破しました。 出典: Wikimedia Commons.jpg)(CC BY 2.0, Raita Futo)

新築は1億円を超え、契約率と在庫は逆を向いた

不動産経済研究所が2026年7月21日に公表した2026年上半期(1〜6月)の首都圏新築分譲マンション市場動向によれば、平均価格は1億135万円で、上半期として初めて1億円を突破しました。前年同期比+13.1%、㎡単価は151.4万円で+12.1%です。東京23区は1億4,249万円(+9.1%)、㎡単価222.6万円(+10.5%)でした。

一方、同じ調査の需給側の指標は逆を向いています。

指標2026年上半期前年同期
発売戸数(首都圏)7,989戸8,053戸-0.8%
発売戸数(東京23区)2,684戸-9.4%
初月契約率(首都圏)64.8%66.6%-1.8P
初月契約率(東京23区)63.9%-4.9P
販売在庫(6月末)6,389戸6,026戸+363戸

(出典:不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2026年上半期」より土地ペディア作成)

好調な市場であれば、価格が上がるとき契約率も上がり在庫は減ります。ここで起きているのは逆で、価格だけが上がり、契約率が下がり、在庫が積み上がっています。値付けに需要がついてきていないサインと読むのが自然です。2025年度(2025年4月〜2026年3月)でも初月契約率は62.9%と前年度から3.9ポイント下がり、3年連続で60%台にとどまりました。

中古は都心から順に頭打ちになっている

東京カンテイが2026年8月24日に公表した7月の中古マンション価格(70㎡換算)は、首都圏平均が7,547万円で前月比+1.2%と24か月連続の上昇でした。しかし内訳を見ると、上昇が続いているのは郊外側で、都心は下げに転じています。

エリア5月6月7月7月の前月比
首都圏7,360万円7,454万円7,547万円+1.2%
都心6区18,748万円18,512万円18,195万円-1.7%(3か月連続マイナス)
東京23区12,849万円12,741万円12,724万円-0.1%(2か月連続マイナス)
城南・城西6区10,674万円10,794万円10,873万円+0.7%(上昇率は鈍化)
横浜市4,576万円4,697万円4,745万円+1.0%
さいたま市4,214万円4,311万円4,400万円+2.1%
千葉市2,890万円+2.3%

(出典:東京カンテイ「中古マンション価格 2026年8月24日」より土地ペディア作成。都心6区は千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・渋谷区)

都心6区は-0.4%(5月)、-1.3%(6月)、-1.7%(7月)と下落率そのものが拡大しています。東京カンテイは、新規流通戸数が前年同月比で増加し、反響の鈍さから継続分も積み上がって流通戸数全体のボリュームが増大していると説明しています。城南・城西6区の上昇率も+1.5%→+1.1%→+0.7%と鈍化しており、調整が中心から外側へ波及しつつある形です。

供給そのものが細っている

2025年度の首都圏新築マンション発売戸数は21,659戸で前年度比-2.6%、1973年度以降の最少を更新しました。同じく国土交通省の建築着工統計では、2025年度の新設住宅着工戸数が711,171戸で前年度比-12.9%と、1962年度(603,090戸)に次ぐ低水準です。内訳は持ち家195,111戸(-12.6%)、貸家308,906戸(-13.5%)、分譲住宅200,563戸(-12.6%)でした。

供給が減れば希少性で価格は支えられますが、同時に取引そのものが痩せていきます。住宅地の地価は取引事例の積み上がりで動くため、供給の縮小は上昇にも下落にもブレーキをかける方向に働きます。住宅地が+2.1%で動かなかった一因は、この「取引が細っていること」にもあると考えられます。

今後の見通し

大型物流施設DPL鳥栖の外観
佐賀県鳥栖市の大型物流施設「DPL鳥栖」。令和8年地価公示で工業地は+4.9%と3用途で最も高い上昇率を記録し、eコマース市場の拡大を背景とした物流施設用地の需要が地価を押し上げています。 出典: Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0, Peka)

反証材料 — 「金利のせい」だけでは説明できないこと

ここまで金利と住宅地の関係を見てきましたが、因果関係を断定するのは危険です。以下の事実は「金利が住宅地を止めた」という説明と整合しません。

  • 住宅着工は2026年に入って反発している。2026年4月は62,569戸で前年同月比+11.4%、6月は66,344戸で+18.6%と3か月連続の増加。省エネ基準適合義務化と4号特例縮小による2025年の駆け込み・反動という制度要因が大きく、金利とは別の力が働いている
  • 東京圏・大阪圏の住宅地はむしろ上昇幅を広げている。金利が全国一律に効くなら、都心住宅地だけが加速する説明がつかない
  • 地方四市の減速は利上げ前から始まっている。地方四市の住宅地は令和6年の+7.0%から令和7年+4.9%、令和8年+3.5%と2年連続で縮小しており、これは人口動態や再開発サイクルの一巡といった構造要因のほうが説明力が高い
  • 工業地は+4.9%と3用途で最も高い。物流施設や半導体関連の設備投資は借入依存度が高い分野であり、金利上昇が投資需要を一律に冷やすわけではないことを示している

より妥当な解釈は、金利上昇は住宅地の「実需で買う層」に対して選択的に効いており、現金購入・高所得層・海外資本が支える都心住宅地には効きにくい、というものでしょう。住宅地だけが横ばいになったのは、3用途のなかで住宅地が最もローン依存度の高い需要層に支えられているからだと考えられます。

住宅地の上昇が続く条件

  • 賃金上昇が金利上昇を上回ること。返済負担率が悪化しなければ購買力は維持される
  • 日銀の利上げが年0.25%程度のペースにとどまること。政策金利1.5%超では借入可能額が0.5%時点比で15%以上目減りする
  • 都心の再開発と供給制約が続くこと。港区品川区の湾岸再開発は令和8年公示の上昇率上位地点を生んでおり、これは金利とは独立した価格形成要因

住宅地が先に折れるシナリオ

  • 政策金利が1.5%を超え、変動金利の適用利率が2%台に達する場合。同じ返済額で買える価格が0.5%時点比で15〜22%下がり、郊外住宅地から需要が抜ける
  • 中古マンションの調整が都心6区から23区全域、さらに近郊へ広がる場合。既に城南・城西6区の上昇率は鈍化しており、この波及が続けば実需の指標として住宅地地価に先行する可能性がある
  • 新築マンションの初月契約率が60%を割り込み、在庫がさらに積み上がる場合。2025年度62.9%、2026年上半期64.8%という水準は、まだ危険水域ではないが余裕もない

よくある質問

Q. 令和8年地価公示で住宅地だけが上昇幅を広げなかったのは、日銀の利上げが原因ですか?

A. 利上げが一因である可能性は高いものの、断定はできません。令和8年地価公示の価格時点は2026年1月1日で、政策金利が1.0%へ引き上げられた2026年6月より前です。この時点の政策金利は0.75%で、多くの既存借入者の返済額にはまだ反映されていませんでした。一方、住宅地の減速は東京圏では起きておらず、名古屋圏(+2.3%→+1.9%)や地方四市(+4.9%→+3.5%)に集中しています。金利より人口動態や再開発サイクルの影響が大きいエリアが平均を押し下げた、と見るほうが整合的です。

Q. 金利が0.5%から1.0%に上がると、住宅の購入予算はどれくらい減りますか?

A. 月13万円の返済を上限とした場合、借入可能額は5,008万円から4,605万円へ約403万円(-8.0%)減ります。これは住宅地の地価上昇率+2.1%の約4年分に相当します。仮に政策金利が1.5%まで上がり適用金利が2.0%になれば、借入可能額は3,924万円と-21.6%になります。月々の返済額の差は0.5%から1.0%で11,350円と小さく見えますが、購買力への影響は無視できません。各エリアの地価水準は土地ペディアの市区町村ページでご確認いただけます。

Q. マンション価格が上がり続けているのに、住宅地の地価が横ばいなのはなぜですか?

A. 首都圏新築マンションの2026年上半期平均価格1億135万円(+13.1%)は、地価だけでなく建築費の高騰と超高額物件の増加を反映した数字です。また新築マンション用地の取得競争が起きているのは主に東京23区などの都心部で、そこは実際に住宅地地価が+9.0%と急伸しています。全国の住宅地+2.1%との差は、マンション市場が集中する都心と、住宅地の標準地の大半を占める地方圏との構造差によるものです。なお中古市場では都心6区が3か月連続でマイナス(7月-1.7%)となっており、価格上昇の局面が変わりつつある可能性もあります。

まとめ

令和8年地価公示で住宅地だけが+2.1%と横ばいにとどまった事実は、住宅地市場が一様に停滞したことを意味しません。東京圏の住宅地は+4.2%から+4.5%へ、東京23区に至っては+7.9%から+9.0%へ加速する一方、地方四市は+4.9%から+3.5%へ、名古屋圏は3年連続で縮小しました。上昇率上位10地点のうち6地点が東京都という偏りが、この分岐を象徴しています。

金利については、政策金利が2026年6月に1.0%へ到達したものの、令和8年公示の価格時点はその前であり、住宅ローンの変動金利への反映にもさらに時間差があります。金利上昇が住宅地の実需層の購買力を確実に削っていること(0.5%→1.0%で借入可能額-8.0%)は事実ですが、住宅着工の反発や都心住宅地の加速といった反証材料もあり、単純な因果で語るべきではありません。

注目すべきは、新築マンションの契約率低下と在庫増、中古マンションの都心6区3か月連続下落という実需側のシグナルです。これらは地価公示に先行して動く指標であり、令和9年地価公示で住宅地がどう動くかを占う手がかりになります。各エリアの最新地価は土地ペディアでご確認ください。

--- 出典・参考 - 国土交通省「令和8年地価公示」(令和8年3月17日報道発表、価格時点:令和8年1月1日。個別地点の価格は3月18日より不動産情報ライブラリに掲載) - 国土交通省「令和8年地価公示の概要」(令和8年3月) - 国土交通省「建築着工統計調査」 - 日本銀行「金融政策決定会合」公表資料 - 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2026年上半期(1〜6月)」(2026年7月21日) - 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2025年度」(2026年4月20日) - 東京カンテイ「三大都市圏・主要都市別/中古マンション70㎡価格月別推移」(2026年8月24日) - 住宅金融支援機構「【フラット35】借入金利」 - 三菱UFJ銀行「短期プライムレート」「【住宅ローン】変動金利の基準金利見直しについて」

※本記事の地価データは令和8年(2026年)地価公示に基づいています。市区町村別の平均地価は土地ペディアが同データをもとに集計したものです。金利・マンション価格は2026年8月時点の公表値です。

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