土地ペディア

スノーリゾート支援17地域の地価を全部数えた — 8地域は4年でマイナス、「地域平均」が実態を隠していた

冬の白馬村中心部。除雪された県道の正面に雪をまとった北アルプス白馬三山がそびえ、道路沿いに宿泊施設やスポーツ用品店が並ぶ
白馬村北城の中心部。この写真に写る範囲のすぐ近くにある住宅地地点は、令和8年地価公示で前年比+33.0%と全国の住宅地で最も上がった。同じ「白馬地域」に含まれる隣の大町市は-0.57%だった。 出典: Wikimedia Commons(CC BY 2.0, Raita Futo)

はじめに — 17地域を全部数えたら、8地域が下がっていた

観光庁は2026年7月8日、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の支援対象として17地域を公表しました。令和8年3月23日から5月15日まで公募を行い、有識者等による審査を経て選ばれた地域です。

土地ペディアでは、この17地域を構成する全市町村の公示地価地点を集計し、2022年から2026年までの4年間でどう動いたかを調べました。結果は、17地域のうち8地域が4年累積でマイナスでした。

もっと重要だったのは、その先です。上位に来た白馬・猪苗代・新得の3地域では、地域の平均値と、実際にスキー場を抱える町の数字が正反対の方向を向いていました。地域平均は、その地域で最も大きな自治体の数字にほぼ置き換わっていたのです。

前提の確認 — 選定基準と、この記事の集計方法

支援対象の選定は地価を見ていない

最初に断っておくと、この事業の選定基準は地価ではありません。インバウンド需要を取り込む意欲やポテンシャルを審査するものであり、「地価が下がっている地域が選ばれたのはおかしい」という読み方は成立しません。

むしろ逆で、支援公表は2026年7月8日、令和8年地価公示の価格時点は2026年1月1日です。支援の効果が公的な地価統計に現れる余地は、今年の数字には物理的にありません。本記事の数字は、これから効果を測るための基準点として読むべきものです。

集計方法

  • 対象データ: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)の地点別データ
  • 対象地点: 各市町村の全地点のうち、林地を除いたもの
  • 4年累積: 各地点の2026年価格と2022年価格の比を求め、その単純平均をとったもの
  • 2025→2026: 各地点の前年比変動率の単純平均
  • 下落地点比率: 2026年価格が2025年価格を下回った地点の割合

したがって4年累積の集計対象は、2022年と2026年の両方に価格がある地点に限られます。この4年間に廃止された地点は含まれません(生存バイアス)。

17地域の4年累積騰落

一覧

地域主な構成市町村集計地点数4年累積2025→2026下落地点比率
野沢温泉野沢温泉村2+70.9%+21.69%0%
白馬白馬村・大町市・小谷村7+41.7%+11.22%43%
札幌札幌市10区459+31.7%+2.40%2%
新得新得町・帯広市42+26.1%+0.71%0%
猪苗代猪苗代町・福島市・郡山市133+11.2%+2.72%8%
蔵王山形市・上山市52+4.0%+0.71%12%
びわこ大津市ほか4市161+1.9%+1.30%34%
大雪旭川市ほか8町100+1.8%+0.22%16%
草津草津町3+0.5%+1.57%67%
会津磐梯会津若松市・磐梯町・北塩原村35-0.5%-0.12%31%
郡上郡上市3-0.8%0.00%0%
八幡平八幡平市3-1.6%-0.15%33%
白樺高原茅野市・立科町・長和町5-3.4%-0.46%75%
越後湯沢湯沢町・南魚沼市11-5.8%-1.23%91%
妙高妙高市8-6.4%-0.79%67%
勝山勝山市5-7.0%-2.08%80%
山ノ内山ノ内町3-9.2%-2.49%100%

出典: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)より土地ペディア作成

二極化ではなく、三つの層に分かれている

上位2地域と下位2地域の差は80ポイントを超えます。ただしこれを「勝ち組と負け組」と読むと構造を見誤ります。

上位の野沢温泉村白馬村は、集計地点がそれぞれ2地点・3地点しかない小さな村です。3位の札幌市中央区を含む札幌地域は459地点あり、+31.7%という数字の信頼度がまったく違います。札幌の上昇はスノーリゾートというより都市部の地価上昇そのものです。

下位の山ノ内町は3地点すべてが下落、越後湯沢地域は11地点中10地点が下落しています。こちらは地点数が少なくても方向が揃っているぶん、傾向としては読み取れます。

「地域平均」が隠していたもの

ここからが本題です。複数市町村で構成される地域では、地域平均とスキー場所在自治体の数字が食い違います。

地域地域平均(4年)スキー場のある自治体周辺の都市
白馬+41.7%白馬村 +102.6%(当年+26.93%、n=3)大町市 -3.9%(当年-0.57%、下落75%、n=4)
猪苗代+11.2%猪苗代町 -8.3%(当年-2.47%、下落67%、n=3)郡山市 +16.4%(n=71)/福島市 +6.0%(n=59)
新得+26.1%新得町 0.0%(当年0.00%、n=3)帯広市 +28.1%(当年+0.76%、n=39)
越後湯沢-5.8%湯沢町 -3.2%(下落67%、n=3)南魚沼市 -6.7%(下落100%、n=8)

出典: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)より土地ペディア作成

白馬 — 白馬村だけが突出し、隣の大町市は下がっている

白馬地域は白馬村大町市小谷村の3市村で構成されます。白馬村の3地点は4年累積+102.6%、当年+26.93%、下落地点ゼロ。うち大字北城字堰別レ827番36(住宅地、27,400円/㎡)は前年比+33.0%で、令和8年地価公示の住宅地変動率で全国1位でした。同じ北城の商業地・字山越4093番2(40,300円/㎡)は+35.2%で商業地の全国3位です。

一方、隣接する大町市は4地点中3地点が下落、4年累積-3.9%です。地域平均+41.7%は、白馬村1村の数字が3地点だけで地域全体を押し上げた結果です。

猪苗代・新得 — スキー場のある町ではなく、周辺都市が平均を作っている

こちらは逆方向のねじれです。

猪苗代地域は猪苗代町福島市郡山市の3市町。地域平均は+11.2%ですが、スキー場のある猪苗代町は4年累積-8.3%、3地点中2地点が下落しています。字新町4858番1外の商業地(19,300円/㎡)は4年で-13.5%。地域平均を作っているのは郡山市の71地点(+16.4%)と福島市の59地点(+6.0%)で、両市は猪苗代町から30km以上離れた県内の中核都市です。

新得地域も同じ構造です。新得町の3地点は4年累積0.0%、当年も0.00%、つまり2022年から一切動いていません。地域平均+26.1%を作っているのは帯広市の39地点(+28.1%)です。

下がっている地域でも、スキー場に接した地点だけは上がっている

もっと細かく見ると、マイナス地域のなかにも例外があります。

地点用途2026年価格前年比4年累積
妙高市大字赤倉字南469番14外商業地19,700円/㎡+7.1%+10.1%
妙高市朝日町1丁目393番18商業地35,800円/㎡-3.2%-12.7%
草津町大字草津字堂裏462番21商業地57,800円/㎡+5.9%+9.7%
草津町大字草津字堂裏454番119住宅地33,700円/㎡-0.6%-5.3%
湯沢町湯沢1丁目8番6商業地43,800円/㎡+1.6%+2.3%
湯沢町大字湯沢字大石田1473番2外住宅地20,600円/㎡-1.4%-5.5%

出典: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)より土地ペディア作成

妙高市全体は4年累積-6.4%ですが、赤倉温泉スキー場に接する赤倉の商業地は+10.1%です。市街地の朝日町は-12.7%。草津町も、湯畑周辺の商業地が+9.7%である一方、住宅地2地点はいずれもマイナスでした。湯沢町も駅前商業地は微増、住宅地はマイナスです。

つまり観光需要は地価に効いています。ただし効いている範囲が、宿泊・商業機能が集積したごく狭い区画に限られ、住民が住む住宅地までは届いていない。これが多くのスノーリゾート自治体の実態です。

野沢温泉スキー場の全景。中央に山頂へ伸びるゲレンデが走り、山裾の斜面に温泉街の建物が密集して広がる
野沢温泉村。ゲレンデが温泉街のすぐ背後まで下りてくる地形で、集落とスキー場が事実上一体化している。この村の公示地点は2地点しかなく、村平均+70.9%はその2地点で決まっている。 出典: Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0, Hideyuki KAMON)

公示地価に地点がない8つの町

集計中にもう一つ見つかったことがあります。17地域を構成する市町村のうち8つには、地価公示(L01)の地点が1つも存在しません。

市町村所属地域主なスキー場L01地点数
東川町大雪旭岳0
当麻町・比布町・愛別町大雪0
北塩原村会津磐梯グランデコ・裏磐梯0
小谷村白馬栂池高原・白馬乗鞍0
立科町白樺高原白樺高原国際・女神湖0
長和町白樺高原ブランシュたかやま0

出典: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)より土地ペディア作成

白樺高原地域は3市町のうち2町に地点がなく、地域平均-3.4%は実質的に茅野市5地点だけの数字です。白馬地域の小谷村、会津磐梯地域の北塩原村も同様で、いずれも地域の中核スキー場を抱える自治体でありながら公示地価には映りません。

都道府県地価調査で補うと絵が変わる

これらの町にも都道府県地価調査(L02、価格時点は毎年7月1日)の地点はあります。参考として、L02で2021年から2025年までの4年間を同じ方法で集計すると次のようになります。

市町村L02地点数2021→20252024→2025
東川町4+17.4%+5.25%
小谷村2+0.7%+1.57%
立科町3-3.3%-0.84%
北塩原村3-7.2%-1.68%
長和町3-8.0%-2.25%

出典: 国土交通省「都道府県地価調査」(国土数値情報 L02)より土地ペディア作成

旭岳を抱える東川町は4年で+17.4%と、地価公示ベースの大雪地域平均+1.8%とは別の顔を見せます。小谷村も2地点のうち栂池高原の親ノ原の地点は前年比+4.9%で、千国の地点は-1.8%。集落単位で方向が割れています。

なお公示地価と都道府県地価調査は調査主体・価格時点・地点が異なるため、両者の数値を直接比較したり接続したりすることはできません。上の表はあくまで「公示地価では見えない町の参考値」です。

支援対象外の倶知安・富良野・高山が上位に来る

支援17地域に含まれていない自治体のほうが、地価の伸びでは目立っています。

自治体集計地点数4年累積2025→2026
倶知安町4+28.6%+12.33%
富良野市5+34.3%+6.74%
高山市8+16.5%+4.54%

出典: 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01)より土地ペディア作成

倶知安町の年別平均変動率は2022年+5.77%、2023年+2.05%、2024年+4.23%、2025年+7.42%、2026年+12.33%と、直近3年で加速しています。ニセコひらふ5条3丁目83番29の住宅地は200,000円/㎡、南1条西1丁目40番1外の商業地は181,000円/㎡で+16.0%でした。

富良野市の2026年の市平均は+6.74%ですが、スキー場直下の北の峰町4777番33(住宅地、84,500円/㎡)は+30.0%で住宅地の全国2位です。市平均と地点別で数字がまったく違う典型例です。

高山市は上三之町51番(商業地、531,000円/㎡)が2022年に-9.6%だったところから、2024年+18.3%、2025年+28.8%、2026年+24.9%へ反転しました。

これらは支援の有無が地価を決めているわけではないことを示しています。倶知安・富良野・高山はすでに市場が織り込んだ地域であり、支援は「まだ織り込まれていない地域」に配分されたと読むほうが自然でしょう。

積雪した平野の奥に、ゲレンデの筋が刻まれた富良野スキー場の山塊が横たわる冬の富良野市
富良野市。支援17地域には含まれていないが、スキー場直下の北の峰町の住宅地は令和8年地価公示で+30.0%と全国2位だった。市全体の平均は+6.74%で、市平均と地点別の差が大きい。 出典: Wikimedia Commons(パブリックドメイン, wakimasa)

効果を測る基準点はいつになるか

最初の観測点は2027年3月の地価公示

支援対象の公表は2026年7月8日です。令和8年地価公示の価格時点は2026年1月1日なので、今年の数字に効果が出ることはありません。最初に効果が反映されうるのは、価格時点2027年1月1日、公表が2027年3月の地価公示です。

したがって本記事の17地域の数字は、そのときに比較するための基準線です。見るべき指標は地域平均ではなく、次の2つだと考えます。

  • スキー場所在自治体の単独平均が、周辺都市の平均から独立して動き始めるか
  • 各自治体の下落地点比率が下がるか(越後湯沢91%、勝山80%、白樺高原75%)

インバウンドの前提

日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2026年7月の訪日外客数は3,442,100人で前年同月比+0.1%、7月として過去最高でした。ただし伸び率は0.1%であり、数年前のような二桁成長ではありません。

白馬村や倶知安町のような加速は、訪日客数の増加ペースそのものよりも、宿泊・別荘用地の取得競争という局所的な需給で説明したほうが実態に近いと考えられます。訪日客数が横ばいでも特定地点の地価だけが2桁上昇する状況は、今年の数字がそのまま示しています。

紅葉の山あいに広がる越後湯沢の市街地を高台から俯瞰した写真。中央にリゾートマンション群と上越新幹線の高架が見える
湯沢高原から見た越後湯沢の市街地。リゾートマンションが集積するが、越後湯沢地域11地点のうち10地点が令和8年地価公示で下落した。駅前商業地だけが+1.6%と例外だった。 出典: Wikimedia Commons(CC0, Syced)

読むときの注意

本記事の数字には、次の限界があります。

  • 地点数が極端に少ない自治体が多い。野沢温泉村2地点、白馬村3地点、新得町3地点、山ノ内町3地点、草津町3地点、勝山市5地点。平均が1〜2地点で決まっているため、断定的な結論は導けない
  • 4年累積は2026年に存在する地点のみを対象としている。この4年で廃止された地点は集計に入らない(生存バイアス)
  • 市町村平均と地点別の数字はまったく別物である。富良野市の例(市平均+6.74%、北の峰町+30.0%)のとおり、平均は個別地点の動きを平準化する
  • 公示地価(L01)と都道府県地価調査(L02)は接続できない。本記事でも両者は別の表に分けている

よくある質問

Q. 支援対象17地域に選ばれたのに地価が下がっているのは、選定に問題があるということですか。

A. いいえ。この事業の選定基準は地価水準や騰落率ではなく、インバウンド需要を取り込む意欲やポテンシャルです。また支援の公表は2026年7月8日で、令和8年地価公示の価格時点である2026年1月1日より後です。今年の数字に支援の効果が現れる余地はありません。本記事の数字は、これから効果を測るための出発点として位置づけるのが正確です。

Q. 白馬村の+33.0%が全国1位というのは、どの範囲での順位ですか。

A. 令和8年地価公示のうち、住宅地に区分される全国の調査地点(1万7,424地点、前年価格が存在するもの)を土地ペディアが独自に集計し、前年比変動率で並べたときの1位です。国土交通省が公表する順位表とは集計範囲が異なる場合があります。商業地の同じ集計(6,386地点)では、白馬村大字北城字山越4093番2の+35.2%が3位でした。

Q. スキー場のある町の地価を知りたいとき、地域平均を見てはいけないのですか。

A. 複数市町村で構成される地域では、地域平均は最も地点数の多い自治体の数字にほぼ置き換わります。猪苗代地域133地点のうち猪苗代町は3地点しかなく、残る130地点は郡山市と福島市です。個別自治体の動きを知りたい場合は、必ず市町村単位、できれば地点単位まで下りて確認してください。

まとめ

観光庁が選んだスノーリゾート支援17地域を公示地価で集計すると、次のことが分かりました。

  • 17地域のうち8地域が2022年から2026年の4年累積でマイナス。最下位は山ノ内町の-9.2%で、3地点すべてが下落している
  • 白馬地域の+41.7%は白馬村3地点(+102.6%)が作った数字で、隣の大町市は-3.9%
  • 猪苗代地域の+11.2%と新得地域の+26.1%は、スキー場のある町ではなく郡山市・帯広市が作っている。猪苗代町は-8.3%、新得町は0.0%
  • 妙高市赤倉+10.1%、草津町堂裏の商業地+9.7%のように、下落地域のなかでもスキー場・温泉街に接した地点だけは上がっている
  • 17地域の構成市町村のうち8町村には公示地価の地点が存在せず、そもそも公示地価では測れない

支援の効果が公的な地価統計に現れるとすれば、最も早くて2027年3月公表の地価公示です。そのとき見るべきは地域平均ではなく、スキー場所在自治体の単独平均と下落地点比率だと考えます。

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出典・参考 - 観光庁「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業 支援対象地域について」(2026年7月8日公表) - 国土交通省「地価公示」(国土数値情報 L01、価格時点2026年1月1日) - 国土交通省「都道府県地価調査」(国土数値情報 L02、価格時点2025年7月1日) - 日本政府観光局(JNTO)報道発表(2026年8月19日)

※本記事の地価データは、土地ペディアが国土交通省「地価公示」および「都道府県地価調査」の地点別データから独自に集計したものです。市町村・地域単位の平均は対象地点の単純平均であり、国土交通省の公表値と細部が異なる場合があります。林地は集計から除外しています。地点数が少ない自治体では平均値の振れが大きくなる点にご留意ください。

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